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東京地方裁判所 平成9年(ワ)13579号 判決 1998年4月24日

原告

株式会社武田青果店

右代表者代表取締役

武田信太郎

右訴訟代理人弁護士

花房太郎

被告

住友不動産ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

野澤健二

右訴訟代理人弁護士

長尾敏成

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、

(一) 別紙物件目録(二)記載一の建物(以下「共同住宅」という。)に対する別紙担保権目録記載一の根抵当権の物上代位に基づき平成九年五月一四日別紙差押債権目録(一)の家賃債権に対し、

(二) 別紙物件目録(一)記載一から四の土地(以下「駐車場敷地」という。)についての別紙担保権目録記載二の抵当権の物上代位に基づき同日別紙差押債権目録(二)記載(一)から(三)の駐車場使用料債権に対し、及び

(三) 別紙物件目録(二)記載二の建物(以下「駐車施設」という。)に対する別紙担保権目録記載三の抵当権の物上代位に基づき同日別紙差押債権目録(二)記載四から(七)の駐車場使用料債権に対して

した各担保権の行使は、これを許さない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  債権の差押

被告は、訴外株式会社双進(以下「双進」という。)に対する債権担保のために有する別紙担保権目録記載一の根抵当権及び同目録記載二、三の各抵当権の物上代位に基づき、平成九年五月一四日、請求の趣旨のとおりに別紙差押債権目録記載の各債権を差し押えた。

2  差押債権者の地位の変更

しかしながら、差押債権のうち別紙差押債権目録(一)記載の家賃についてはその債権者の地位(賃貸人としての地位)を原告が次のとおり差押前に双進から取得しているから、被告は、原告の有する債権を差し押さえることはできない。

(一) 双進の賃貸と被告の根抵当権

被告は昭和六三年六月一七日に別紙物件目録(二)記載一の建物(共同住宅)について双進から根抵当権の設定を受けたところ、双進はそれより前に既に本件の各第三債務者に共同住宅の各部屋を賃貸していた。

(二) 賃貸人としての地位の双進から原告への承継

原告は、平成八年八月二二日、双進との間で左記の約定で共同住宅の他、駐車施設、別紙物件目録(一)記載の土地一ないし六(駐車場敷地、共同住宅の敷地)の全体(以下「本件全物件」という。)についてまとめて賃貸借契約を締結した(以下「本件変更契約」という。)。

(1) 賃料 月額金三〇万円とし、原告は双進に対し六か月分を六か月ごとに先払いする。

(2) 期間 平成八年八月二二日より平成一三年八月二一日まで。

(3) 保証金 六〇〇〇万円

(4) 共同住宅の賃借人に対する賃貸人としての地位の承継

双進は共同住宅入居者との間の賃貸借契約を解除し、新たに原告とそれらの者との間で賃貸借契約を締結させ、各建物賃借人の賃料が平成八年一一月分から原告指定の口座に入金されるよう手続を行う。

(三) 始期付売買契約

双進は、本件変更契約締結の際、本件全物件につき原告に対し平成一三年八月二一日を始期として売り渡す旨の始期付売買契約を締結した。

(四) 原告による共同住宅各部屋の賃貸

原告は、左記賃借人らとの間で共同住宅の各部屋について、以下のとおり賃貸借契約を締結した。

(1) 賃借人 小池満

契約日 平成八年一二月六日

契約期間 平成八年一一月一日より同一一年一〇月三一日

月額賃料 金二一万〇二四五円

賃借部分 地下一階 198.60平方メートル

(2) 賃借人 松下文雄

契約日 平成八年一一月一日

契約期間 平成八年一一月一日より同一一年一〇月三一日

月額賃料 金二〇万四六〇五円

賃借部分 一〇一号室・二〇八号室計119.43平方メートル 倉庫6.61平方メートル

(3) 賃借人 鈴木秀敏

契約日 平成八年一一月一日

契約期間 平成八年一一月一日より同一一年一〇月三一日

月額賃料 金六万六七一五円

賃借部分 二〇三号室 40.12平方メートル

(4) 賃借人 レンゴー株式会社

契約日 平成九年一月五日

契約期間 平成九年一月一一日より同一一年一〇月三一日

月額賃料 金一〇万八九五五円

賃借部分 二〇二号室 65.49平方メートル

(5) 賃借人 千葉正道

契約日 平成八年一〇月一七日

契約期間 平成二年九月一日より同一二年八月三一日

月額賃料 金九万二三〇〇円

賃借部分 三〇五号室 65.92平方メートル

(6) 賃借人 社団法人北見林業土木協会

契約日 平成八年一一月一日

契約期間 平成八年一一月一日より同一一年一〇月三一日

月額賃料 金七万八〇〇〇円

賃借部分 四〇一号室 46.92平方メートル

(7) 賃借人 株式会社北見カンテック

契約日 平成八年一一月一日

契約期間 平成八年一一月一日より同一一年一〇月三一日

①月額賃料 金一〇万八九五五円賃借部分 四〇二号室 65.49平方メートル

② 月額賃料 金五三万七二六五円賃借部分 五〇一号室、五〇二号室340.00平方メートル

(8) 賃借人 株式会社東洋実業

契約日 平成八年一一月一日

契約期間 平成八年一一月一日より同一一年一〇月三一日

月額賃料 金一一万二〇〇〇円

賃借部分 四〇五号室 67.89平方メートル

(9) 賃借人 三菱ビルテクノサービス株式会社

契約日 平成八年一一月一日

契約期間 平成八年一一月一日より同九年一〇月三一日

月額賃料 金一〇万四九九五円

賃借部分 四〇六号室 63.12平方メートル

(10) 賃借人 財団法人簡易保険加入者協会

契約日 平成八年一一月一日

契約期間 平成八年一一月一日より同一一年一〇月三一日

月額賃料 金一七万四八四五円

賃借部分 六階部分 106.16平方メートル

(五) 原告による駐車場及び駐車施設の賃貸

原告は、左記賃借人らとの間で左記(1)から(3)のとおり駐車場の、左記(4)から(7)の通りの駐車施設の賃貸借契約を締結した。いずれも、契約日は平成八年一一月一日、契約期間は平成八年一一月一日より同九年一〇月三一日である。

(1) 賃借人 小池満

月額賃料 金三万六〇〇〇円

駐車場区画番号 一―四四、四五、四六

(2) 賃借人 レンゴー株式会社

月額賃料 金二万四〇〇〇円

駐車場区画番号 一―一〇、一一

(3) 賃借人 株式会社東洋実業

月額賃料 金二万四〇〇〇円

駐車場区画番号 一―二、三

(4) 賃借人 松下文雄

月額賃料 金三万〇〇〇〇円

駐車場区画番号 二―一、二、九

(5) 賃借人 社団法人北見林業土木協会

月額賃料 金一万〇〇〇〇円

駐車場区画番号 二―四

(6) 賃借人 鈴木秀敏

月額賃料 金二万〇〇〇〇円

駐車場区画番号 二―三、五

(7) 賃借人 千葉正道

月額賃料 金二万〇〇〇〇円

駐車場区画番号 二―三二、三三

3  仮に、原告による双進の賃貸人たる地位の承継取得が認められないとしても、本件差押債権は、双進から目的物を賃借した原告が有する共同住宅、駐車施設及び駐車場の各転貸料債権であり、被告の根抵当権・抵当権に基づく物上代位は及ばない。

4  よって、原告は、右担保権行使の排除を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める

2  同2、3の事実は不知。法的主張は争う。

3  共同住宅及び駐車施設については、原告は、平成八年九月三〇日所有権を取得し、同年一〇月八日、双進からの所有権登記を経由した。したがって、被告は所有者としての原告が第三債務者に対して有する各賃料債権を差し押えたものであり、この場合、賃料に対する物上代位は、賃貸借と抵当権設定の先後を問わず、肯定される。

また、抵当権設定後に抵当不動産を借り受けた賃借人が目的不動産を転貸した場合、その転貸料に物上代位の効力は及ぶと解されるから、右前段の所有権取得が認められない場合または駐車場敷地についても、その転貸料債権に被告の有する担保権の物上代位の効力が及ぶ。

第三  証拠関係は証拠目録のとおりであり、これを引用する。

理由

(事実の認定については、認定に供した主な証拠(断りのないものは、平成九年(ワ)一三五七七事件の証拠番号)を認定事実の末尾に略記する。成立に争いがないか弁論の全趣旨により成立の認められる書証については、その旨の説示を省略する。)

一  前提事実

被告が担保権目録記載の抵当権等に基づいて差し押さえをしたことは争いがない。

二  原告の地位と差押との関係

1  原告は、本件変更契約により、双進の賃貸人たる地位を承継したと主張する。

しかしながら、本件変更契約前において、被告は双進に対する抵当権により双進の賃借人に対する賃料に物上代位できたのであるから、原告がその双進の地位を承継したとすれば、原告は物上代位を受けることにならざるを得ない。したがって、双進の地位を承継したとの主張は、原告にとって意味がないこととなる。

なお、原告は、共同住宅と駐車施設については、信託を原因として所有権移転登記を得ている(甲二)ところ、抵当権設定者から所有権を譲り受けた者については物上代位の効力が及ぶと解されるので、仮に右の登記が当事者間でも所有権移転の効力を生じさせる意味を持つとすれば、それだけで、原告の請求は理由がなくなる。

さらに、原告主張の承継契約自体が認められないのである。すなわち、原告は、平成八年八月二二日に双進との間で、「双進が共同住宅、駐車施設及び駐車場敷地の占有者との賃貸借契約を解除した後、原告が新たにそれらの者との間で共同住宅、駐車施設及び駐車場敷地について賃貸借契約を締結するようにさせる。」との合意(本件変更契約)をした(甲三)後に、これに基づき右占有者らとの間で賃貸借契約を締結しているのである(甲四、甲五、弁論の全趣旨)。したがって、たとえその目的が原告主張のように双進の契約上の地位の承継にあるとしても、原告と占有者との契約が双進と占有者との契約と別個に締結された以上、原告が双進から賃貸人の地位を承継したことにはならず、原告は新たに双進から賃借し、これを占有者に賃貸(転貸)したものといわざるを得ないのである。

2  転貸料債権に対する抵当権の物上代位の可否

また、原告は、転貸人の地位に就任したところ、転貸料については物上代位の効力が及ばない旨を主張する。そこで、この点について検討する。

抵当権者は、民法三七二条、三〇四条の趣旨に従い、賃料債権についても抵当権を行使することができる(最高裁判所平成元年一〇月二七日第二小法廷判決、民集四三巻九号一〇七〇頁参照)。そうであれば、賃料債権にとどまらず、抵当権設定後に設定者から賃借した者がこれをさらに転貸した場合における転貸料債権にも抵当権者は物上代位の効力を及ぼすことができると解するのが相当である。というのは、そのような効果は抵当権の効力として予想されるところであり、かつそう解することについて公平に反するといった結果がもたらされるわけでもないからである。そして、その場合に民法三〇四条を抵当権に準用するにあたっては、同条の「債務者」中には、抵当不動産の所有者及び第三取得者のほか、抵当不動産を抵当権設定の後に賃借した者も含まれると解するのが相当である。

3  そうすると、原告の有する第三債務者に対する転貸料債権にも物上代位の効力は及ぶと解される。

三  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官岡光民雄)

別紙物件目録(一)・(二)<省略>

別紙担保権目録<省略>

別紙差押債権目録(一)・(二)<省略>

別紙図①・②<省略>

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